高校野球を見ていると、死球を受けた選手がベンチで治療しているのに、すでに試合へ出場している別の選手が突然ランナーとして一塁に立つことがあります。
場内アナウンスで「臨時代走」と告げられても、「普通の代走とは何が違うの?」「誰が臨時代走になるの?」「なぜベンチの俊足選手ではない?」「負傷した選手は試合に戻れる?」と疑問に感じやすい場面です。
しかも2026年度から高校野球では指名打者(DH)制が採用され、通常のDHは臨時代走になれる一方、投手兼任DHは臨時代走になれないという新たなポイントも加わりました。日本高野連も2026年のDH制度解説で「臨時代走と指名打者」を独立したケースとして説明しています。
臨時代走は単に「ケガをした選手の代わりに走る人」ではありません。
誰を走者にするのか、いつまで走るのか、元の選手がいつ復帰できるのか、盗塁や得点を誰の記録にするのかまで決められています。
この記事では、2026年版の高校野球特別規則を軸に、臨時代走のルールを観戦時に迷いやすいケースまで含めて詳しく解説します。高校野球以外では団体ごとに規則が異なる場合があるため、その違いについても後半で整理します。
- 臨時代走は通常の代走とは別の制度
- チームが好きな選手を指名することはできない
- 2026年はDH・投手兼任DHの扱いにも注意
- 元の選手の復帰条件と記録の扱いまで決まりがある
臨時代走のルールを最初に整理
臨時代走とは、攻撃中の選手に負傷などのアクシデントが起き、治療のため試合の中断が長引くと審判員が判断したとき、負傷した選手の代わりに一時的な走者を置く高校野球特別規則です。
重要なのは、通常の選手交代として送られる「代走」とは別の制度だということです。
2026年版高校野球特別規則では、臨時代走について「試合中、攻撃側選手に不慮の事故などが起き、治療のために試合の中断が長引くと審判員が判断したとき」に適用できるとされています。また、臨時代走者は試合に出場中の選手から決まり、チーム側に指名権はありません。
まずは全体像を押さえておきましょう。
- 適用するかどうかを決めるのは審判員
- チームが好きな選手を臨時代走に指名することはできない
- 臨時代走者は原則として試合に出場中の選手から決まる
- 投手は臨時代走者から除外される
- 捕手は現在のルールでは臨時代走になることがある
- 2026年からのDHは、投手兼任でなければ臨時代走になり得る
- 元の負傷選手は条件を満たせば試合へ復帰できる
- 盗塁・得点・残塁などは元の走者の記録になる
つまり臨時代走は、足の速い選手へ入れ替えて得点力を上げるための制度ではありません。
負傷した選手の治療時間を確保しながら試合を進めるための、一時的な措置です。
臨時代走はどんなときに使われる?
臨時代走を見る機会として多いのが死球です。
特に頭部付近への死球では、選手の状態を確認する時間が必要になるため、臨時代走が適用される場面があります。
ただし、「死球を受けたら必ず臨時代走」というルールではありません。 死球以外でも適用される可能性があります。
死球を受けても自動的に臨時代走になるわけではない
臨時代走の適用条件で重要なのは、「死球だったかどうか」そのものではありません。
治療のための中断が長引くと審判員が判断したかどうかです。
たとえば腕に軽くボールが当たり、本人がすぐ一塁へ向かえる状態なら、必ず臨時代走が出るわけではありません。
一方、頭部への死球などで状態確認が必要になり、すぐに走者としてプレーさせるのが適切ではないと判断される場面では、臨時代走によって試合を進めながら本人の治療や確認を行えます。
死球以外の負傷でも使われる
臨時代走は「死球専用のルール」でもありません。
日本高野連は、走者と守備側選手が塁上で接触した場合などについても、状況に応じて臨時代走を適用すると説明しています。
さらに、体調不良、足のつり、筋肉系の不調など、外から状態が分かりにくい症状についても、審判員が慎重に確認したうえで適用の可否を判断します。
したがって、対象になり得るのはたとえば次のようなケースです。
- 死球を受けて治療や状態確認が必要になった
- 走塁中の接触で負傷した
- 塁上で足がつって走塁を続けにくくなった
- 筋肉系のトラブルが起きた
- 体調不良によってすぐにプレーを続けられなくなった
大切なのは負傷の名前ではなく、試合を止めたまま治療を続ける必要がある状態かどうかです。
監督が「臨時代走をお願いします」と決める制度ではない
攻撃側の監督が希望すれば臨時代走を使える、と考えるのも間違いです。
臨時代走を適用するかどうかは審判員が判断します。
日本高野連によれば、以前は死球の直後に攻撃側が臨時代走を求めるような行動も見られたものの、本来の制度趣旨とは異なるため、現在は審判員が必要性を判断する運用が明確にされています。
これは臨時代走を戦術目的で利用させないためにも重要です。
足の遅い選手が出塁したからといって、チーム側が「少し痛そうなので臨時代走にしたい」と都合よく利用できる仕組みではありません。
臨時代走では誰が走る?選手の決め方
臨時代走のルールで最も気になるのが、「結局、誰が走るのか」という部分でしょう。
ベンチにいる俊足選手を監督が選ぶわけではありません。
さらに、負傷したのが「今打席を終えた打者」なのか、「すでに塁上にいた走者」なのかによって決め方が少し異なります。
打者が死球などで負傷した場合
打者が死球などによって負傷し、出塁する場面で臨時代走を適用する場合は、投手を除いた選手のうち、打撃を完了した直後の選手が臨時代走者になります。
たとえば4番打者が死球を受けたとしましょう。
3番打者が普通の野手で、すでにベンチへ戻っている状態なら、基本的には3番打者が臨時代走として一塁へ向かいます。
一方、3番打者が投手なら話が変わります。
投手は臨時代走者の対象から外れるため、さらに前に打撃を完了した選手までさかのぼって判断します。
「死球を受けた4番の代わりだから、控えの俊足選手を出そう」という選び方はできません。
すでに塁上にいる走者が負傷した場合
一塁や二塁、三塁にいる走者が接触や足のつりなどで負傷したケースでは条件が一つ増えます。
この場合は、投手を除き、さらに現在打席に立っている打者も除いたうえで、打撃を完了した直後の選手が臨時代走になります。
現在の打者まで臨時代走にしてしまえば、その打席を続ける選手がいなくなるからです。
そのため、直前の打順だけを見て「この選手が臨時代走」と即断できない場面があります。
投手なのか、現在打席にいるのか、すでに別の塁にいるのかといった試合状況も確認する必要があります。
塁が埋まっていると「かなり前の打者」が臨時代走になることもある
日本高野連は、このルールが分かりやすい具体例を紹介しています。
1番打者が二塁、2番打者が一塁にいて、3番打者が負傷して臨時代走を必要としたとします。
前の打順へさかのぼると9番打者ですが、その9番が投手だった場合は対象外です。
さらに1番打者と2番打者はすでに塁上にいます。
そのため、このケースでは8番打者が3番打者の臨時代走として一塁へ入ります。
つまり、「直前に打撃を完了した選手」という言葉を、単純に「一つ前の打者」と覚えるのは不十分です。
試合状況によっては、打順をかなりさかのぼることもあります。
テレビ中継で「なぜ3番打者の臨時代走が8番なの?」という場面があったら、途中の選手が投手だったり、すでに塁上にいたりしないかを見ると理解しやすくなります。
投手・捕手・DHは臨時代走になれる?
2026年の高校野球では、ここが以前より少し複雑になりました。
特に注意したいのがDHです。
高校野球では2026年度から指名打者制が採用されたため、「投手」「捕手」だけでなく、「DH」「投手兼任DH」を分けて考える必要があります。
- 投手:臨時代走になれない
- 捕手:条件を満たせば臨時代走になれる
- DH:投手兼任でなければ臨時代走になれる
- 投手兼任DH:臨時代走になれない
投手は臨時代走になれない
2026年版高校野球特別規則でも、臨時代走者を決める際は投手が除外されています。
たとえば4番打者が負傷し、直前に打撃を終えた3番打者が投手だったとしても、3番投手を臨時代走にはしません。
さらに前の対象選手までさかのぼります。
なお、高校野球では「投手も臨時代走として使えるようにする案」が検討されたことがありますが、2025年12月に公表された検討結果では実施が見送られています。したがって、2026年も「投手は除外」というルールです。
捕手は臨時代走になれる
「ピッチャーとキャッチャーはどちらも臨時代走にならない」と覚えている人は注意が必要です。
以前は投手だけでなく捕手も臨時代走者から除外されていました。
しかし日本高野連によれば、1999年の改正時には投手と捕手の両方が除外されていたものの、2015年から捕手は臨時代走者になれるようになり、現在の除外対象は投手です。
そのため現在は、条件上「直前に打撃を完了した選手」が捕手であれば、捕手が臨時代走として走ることがあります。
昔の高校野球をよく知る人ほど間違えやすいポイントです。
2026年からは通常のDHも臨時代走になれる
2026年度から高校野球ではDH制が導入されています。
そして日本高野連は、2026年のDH制度ケーススタディで、投手を兼任していないDHは臨時代走者になれると明確に示しています。
たとえばDHの選手が打撃を終え、その直後の打者が死球で負傷したとします。
そのDHが規則上「打撃を完了した直後の選手」に当たり、投手を兼任していないのであれば、臨時代走者になる可能性があります。
「DHは守備についていないから臨時代走にも出ない」と考えるのは間違いです。
DHも試合に出場している選手だからです。
投手兼任DHは臨時代走になれない
一方、いわゆる「二刀流」で、同じ選手が投手とDHを兼任している場合は扱いが異なります。
日本高野連の2026年ケーススタディでは、投手兼任ではないDHは臨時代走になるが、投手兼任DHは臨時代走者にならないと説明されています。
整理すると次のようになります。
| 選手 | 臨時代走になれる? | ポイント |
|---|---|---|
| 普通の野手 | ○ | 条件を満たせば対象 |
| 捕手 | ○ | 現在は除外されない |
| 投手 | × | 臨時代走者から除外 |
| DH | ○ | 投手を兼任していなければ対象 |
| 投手兼任DH | × | 投手としても出場しているため対象外 |
2026年の高校野球で臨時代走を見るなら、この区別は押さえておきたいところです。
臨時代走はいつまで走る?元の選手が戻るタイミング
臨時代走は「一時的な代走」ですが、治療が終わった瞬間に元の選手と入れ替えられるわけではありません。
一度臨時代走者として塁に入った選手には、その役割が終了する明確なタイミングがあります。
元の選手が試合へ戻れるかどうかも、このルールとセットで考えると分かりやすくなります。
アウト・得点・イニング終了まで続く
臨時代走者は原則として、
- アウトになる、得点する、イニングが終了する
のいずれかまで走者を続けます。
たとえば死球を受けたA選手の代わりにB選手が臨時代走として一塁に出たとしましょう。
A選手の治療がすぐ終わったとしても、B選手がまだ一塁にいるなら、その場でA選手へ戻すことはできません。
B選手が二盗し、さらに三塁まで進んでも同じです。
そのまま本塁へ生還すれば臨時代走としての役割は終了します。
けん制や走塁プレーでアウトになった場合も終了です。
また、残塁したまま3アウトになれば、イニング終了によって役割が終わります。
臨時代走者自身の打順が回ってきたら別の臨時代走へ
大量得点のイニングでは、少し珍しいことも起きます。
臨時代走者が塁上に残っているうちに打者一巡し、臨時代走をしている本人の打順が回ってくるケースです。
本人が塁上にいるまま自分の打席へ立つことはできません。
そこで高校野球特別規則では、その臨時代走者に代えて、条件に合う「打撃を完了した直後の選手」を新たな臨時代走者とし、それまで走っていた選手を自分の打席へ戻します。
いわば「臨時代走の臨時代走」が発生するわけです。
ただし、これは通常の選手交代ではありません。
打順を正常に進めるため、臨時代走者を入れ替えているだけです。
元の負傷選手は治療後に復帰できる
通常の代走との最大の違いがここです。
臨時代走を出された元の選手は、臨時代走を適用された時点では正規の選手交代になっていません。
そのため、治療が終わり、臨時代走者が塁上からいなくなれば再び試合に戻ることができます。
たとえばA選手が死球を受け、B選手が臨時代走として出たとします。
B選手がホームへ生還したあと、攻撃が続いて再びA選手の打順まで回ってきた場合、A選手が回復していればA選手自身が打席に立つことができます。
B選手が残塁したまま3アウトになった場合も、イニング終了によって臨時代走は終わるため、A選手が回復していれば次の守備から復帰できます。
逆に、B選手がまだ塁上にいる間は、A選手の治療が終わっていても入れ替えることはできません。
「治療終了=即復帰」ではなく、臨時代走者の走塁が終わったかどうかがポイントです。
臨時代走と普通の代走は何が違う?
「別の選手が代わりに走る」という見た目だけなら、臨時代走も通常の代走も似ています。
しかし、ルール上はまったく性質が違います。
通常の代走は選手交代です。一方、臨時代走は負傷した選手を治療するための一時的な措置です。
| 比較項目 | 臨時代走 | 通常の代走 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 負傷者の治療中に試合を進める | 戦術的な選手交代など |
| 適用判断 | 審判員 | チーム |
| 走者の指名 | チームに指名権なし | チームが選択 |
| 走る選手 | 原則として出場中の選手 | 控え選手など |
| 元の選手 | 条件を満たせば復帰可能 | 原則として退いたら復帰不可 |
| 盗塁・得点などの記録 | 元の走者 | 実際の代走者 |
| 俊足選手を狙って出せるか | できない | できる |
「臨時代走が出た=選手交代」と考えてしまうと、その後に負傷選手が普通に守備へ戻ってきたときに混乱します。
臨時代走の段階では、元の選手はまだ出場選手として扱われています。
臨時代走に普通の代走を出すことはできる?
ここはルールを知らないと、ベンチ側でも判断を誤りかねないポイントです。
臨時代走者に対して、さらに通常の代走を起用すること自体は可能です。
ただし、その瞬間に大きな意味が生まれます。
- 臨時代走者に通常の代走を出すことは可能
- ただし、その時点で元の負傷選手は正規交代となり、その試合には戻れない
通常の代走を出すと負傷した元の選手は正規交代になる
高校野球特別規則では、臨時代走者に通常の代走を起用した場合、負傷した元の選手は正規に交代したものとされ、その後は試合に出場できません。
たとえばエース投手が打席で死球を受け、臨時代走が一塁に出たとします。
その後チャンスが広がり、「もっと足の速い控え選手を走らせたい」と通常の代走を送ることはできます。
しかし、その判断をした時点で、治療中のエースは正規の交代扱いとなります。
「治ったから次の回からもう一度投げてもらおう」はできません。
日本高野連は、実際の甲子園でも、死球を受けたエースに臨時代走が出たあと、チャンスが広がったため臨時代走者へさらに代走を出し、元のエースを交代させなければならなくなった事例があったと紹介しています。
戦術上は通常の代走を送りたくなる場面でも、元の負傷選手をその後も使いたいなら非常に慎重な判断が必要です。
臨時代走は盗塁してもいい?
臨時代走について検索すると、「一時的な走者なのだから盗塁は禁止では?」と疑問に思う人もいます。
結論からいうと、臨時代走者が盗塁すること自体は禁止されていません。
臨時代走者は盗塁できます。ただし、盗塁の公式記録は臨時代走者本人ではなく、負傷した元の走者につきます。
日本高野連も、臨時代走者が盗塁を決めた場合を具体的に説明しています。
臨時代走者は塁に入ったあと、通常の走者として走塁プレーを行います。
そのため、相手投手のモーションや試合状況次第では二盗を狙うこともできます。
「治療中の選手の代わりだから一塁から動いてはいけない」といった制限はありません。
ただし、面白いのは公式記録が実際に走った選手につかないことです。
臨時代走の盗塁・得点は誰の記録になる?
臨時代走の仕組みを理解するうえで、公式記録の扱いは重要です。
2026年版高校野球特別規則では、臨時代走者の盗塁、得点、残塁などは、すべて元の走者の記録として扱うと定めています。
たとえばA選手が死球で出塁し、B選手が臨時代走になったとしましょう。
その後、
- B選手が二盗を成功させる → A選手の盗塁
- B選手がホームへ生還する → A選手の得点
- B選手が塁上に残ったまま攻撃終了 → A選手の残塁
という扱いになります。
実際にグラウンドを走ったのはB選手なのに、記録上はA選手が走ったものとして扱われるわけです。
一見すると不思議ですが、臨時代走者は独立した選手交代ではなく、元の選手の走塁を一時的に代行していると考えると理解しやすくなります。
そのためスコアや個人成績だけを見ると、「治療中だった選手が盗塁している」という不思議な記録に見えることがあります。
頭部への死球で臨時代走が出ると実際にはどうなる?
高校野球中継で臨時代走を見る場面として印象に残りやすいのが、頭部付近への死球です。
この場合、単に監督が選手を交代させているわけではなく、球場内では審判員や医療スタッフが連携して対応しています。
流れを知っておくと、試合が止まっている間に何が行われているのか分かりやすくなります。
球審がタイムをかけて状態確認に入る
日本高野連によると、投球が打者の頭部に当たった場面では、球審がただちにタイムを宣告し、打者をその場にとどめます。
そのうえで臨時代走を適用する場合は、審判員同士で所定の合図を共有しながら対応します。
甲子園大会では、球場に待機している医師や理学療法士が選手の状態を確認し、必要に応じて審判員へ助言する運用も行われています。
その間、球審は場内アナウンス担当者へ治療と臨時代走の適用を伝え、一・三塁の塁審は攻撃側や守備側へ状況を説明するなど、審判員が分担して試合再開の準備を進めます。
テレビで見ると「死球のあと長いタイムになった」だけに見えることがありますが、選手の安全確認と試合再開を同時に進めているわけです。
なぜ高校野球に臨時代走のルールがあるのか
「ケガをしたなら普通の代走を出して交代すればいいのでは?」と思う人もいるでしょう。
それでは負傷の程度を確認する時間が、選手にとって事実上の「交代するか、無理をして出続けるか」という選択につながってしまいます。
臨時代走は、その二者択一を避ける役割があります。
日本高野連は、高校野球には9人や10人という少人数で大会へ出場している学校もあり、予期せぬ負傷者によって試合続行そのものが難しくなるケースがあると説明しています。
そうした環境で、選手の健康と安全を優先しながら試合を成立させるための配慮として臨時代走制度が設けられています。
もし臨時代走制度がなければ、頭部への死球を受けた主力選手が「交代したくない」と急いで一塁へ向かうような状況も起こり得ます。
臨時代走が使えれば、選手本人は状態確認や治療を受けながら、試合は一時的な走者によって続けられます。
同時に、チームに臨時代走者を自由に選ばせないことで、制度が走力アップの戦術として使われることも防いでいます。
選手の安全と競技上の公平性を両立させていることが、臨時代走の大きな意味です。
臨時代走は昔から同じルールではない
現在のルールだけ知りたい場合は必須ではありませんが、昔の高校野球を見てきた人が「捕手も走っていいの?」と感じる理由は、制度の変化にあります。
日本高野連によれば、不慮の事故に際して一時的な代走を認める考え方自体は、戦後間もない1947年の大会規則にも確認できます。
その後ルールは整理され、1999年には投手と捕手を臨時代走者から除外する形になりました。
2015年には捕手が除外対象から外れ、投手のみが除外される現在の形になっています。
そして2026年度から高校野球にDH制が導入されたことで、
「普通のDHは臨時代走になれる」
「投手兼任DHは臨時代走になれない」
という判断も必要になりました。
そのため、数年前の記事や昔の記憶だけを頼りにすると、現在の高校野球と食い違う場合があります。
臨時代走とタイブレークの走者は別の制度
高校野球には、打者としてプレーしていないタイミングで選手が塁上に置かれる場面がもう一つあります。
タイブレークです。
見た目は似ていますが、臨時代走とはまったく目的が異なります。
臨時代走は負傷者の治療中に一時的な走者を置く制度で、審判員が必要性を判断して適用します。
一方、タイブレークは延長戦を規則で定められた走者を置いて開始する仕組みです。
タイブレーク開始時に置かれた走者を「臨時代走」と呼ぶわけではありません。
観戦時には、
「ケガや体調不良が起きたあとに突然出てきた走者なのか」
「タイブレーク開始に伴って塁へ置かれた走者なのか」
を見れば区別できます。
プロ野球にも臨時代走のルールはある?
高校野球で臨時代走を見たあと、プロ野球でも同じ仕組みがあると思う人もいるかもしれません。
しかし、日本高野連が高校野球で運用している臨時代走は高校野球特別規則に定められた制度で、公認野球規則そのものに記されている制度ではありません。
日本高野連も、プロ野球ではこの臨時代走制度を採用していないと説明しています。
したがってプロ野球で負傷した走者を別の選手へ替える場合、高校野球の臨時代走と同じ考え方で元の選手を一時的に治療させ、その後戻すということはできません。
通常の選手交代としての代走など、プロ野球の規則に沿った処理になります。
少年野球・軟式野球・社会人野球でも同じとは限らない
「臨時代走のルール」と検索する際に注意したいのが、どのカテゴリーの野球について調べているのかです。
この記事で詳しく説明しているのは、主に日本高野連の高校野球特別規則における臨時代走です。
野球全体で一つの臨時代走ルールが共有されているわけではありません。
たとえば全日本軟式野球連盟も2026年の競技規定で臨時代走に関する独自の取り扱いを設けており、投手や投手兼任DHを除外する規定などがあります。
社会人野球でも、日本野球連盟は2025年度から、投球が打者の頭部に強く当たって走者となる際、審判員の判断で臨時代走を適用できる規定を設けています。高校野球とまったく同じ制度というわけではありません。
そのため実際にプレーする場合は、「臨時代走」という名称だけで高校野球と同じだと判断せず、所属する連盟や大会の特別規則を確認するのが確実です。
- 所属する連盟・大会の特別規則を確認する
臨時代走のルールで間違えやすいポイント
ここまでの内容を踏まえると、臨時代走で特に勘違いしやすいポイントは次のように整理できます。
- 一番足の速い選手を選ぶ制度ではない チームに指名権はなく、規則とその時点の塁上・打順の状況から臨時代走者が決まります。
- 投手は走れないが、捕手は走れる 「バッテリーは対象外」というのは古いルールで、現在は捕手が臨時代走になる場合があります。
- 2026年からはDHの種類にも注意する 投手兼任ではないDHは対象になりますが、投手兼任DHは臨時代走になりません。
- 臨時代走が出ても元の選手は正規交代ではない 治療後、臨時代走者の役割が終了すれば元の選手は復帰できます。
- 盗塁はできるが記録は元の走者につく 得点や残塁についても同様に元の走者の記録となります。
この5点を知っているだけでも、甲子園や地方大会で臨時代走が出た場面をかなり理解しやすくなります。
実際の試合では4つのポイントを見ると分かりやすい
臨時代走の規則を一字一句覚える必要はありません。
試合観戦中に「誰が走るの?」と迷ったら、次の順番で状況を見ると判断しやすくなります。
誰が負傷したかを見る
打者が負傷したのか、すでに塁上にいた走者が負傷したのかで条件が変わります。
直前までの打順を見る
基本的には直近の打撃完了者へさかのぼっていきます。
その選手が投手や投手兼任DHではないかを見る
該当すれば臨時代走者から除外され、さらに前へさかのぼります。
臨時代走者が塁からいなくなった後を見る
元の負傷選手が回復していれば、その後の打席や次の守備で復帰する可能性があります。
特に「なぜ一つ前の打者が走らないの?」と思ったときは、投手・投手兼任DH・塁上の走者を確認するのがコツです。
臨時代走のよくある疑問
臨時代走について、試合中に疑問になりやすいポイントをQ&A形式で整理します。
臨時代走のルールは「誰が走る・いつ戻る・誰の記録か」を押さえれば分かる
高校野球の臨時代走は、負傷した選手を普通に交代させる制度ではありません。
治療による試合中断が長引くと審判員が判断したとき、元の選手を試合に残したまま、一時的に別の出場選手へ走塁を任せる仕組みです。
打者が死球などで負傷した場合は、原則として投手を除く直前の打撃完了者が臨時代走になります。
塁上の走者が負傷した場合は、投手と現在の打者を除いたうえで直前の打撃完了者を探します。
そのため、塁上に複数の走者がいたり、直前の打者が投手だったりすると、かなり前の打順の選手が臨時代走になることもあります。
また、現在は捕手も臨時代走になることができます。
2026年度から導入されたDHについては、投手を兼任していないDHなら臨時代走になれる一方、投手兼任DHは対象外です。
臨時代走者はアウトになるか得点するか、イニングが終了するまで走者を続けます。
元の選手は治療が終わり、臨時代走者の役割も終了すれば復帰できます。ただし臨時代走者へ通常の代走を送った場合は正規交代となるため、元の負傷選手は戻れません。
そして臨時代走者は盗塁することもできますが、盗塁・得点・残塁などの公式記録はすべて元の走者につきます。
臨時代走が登場したら、
「誰が走るのか」
「元の選手はいつ戻れるのか」
「記録は誰につくのか」
の3点を見ると、試合の状況を理解しやすくなります。
- 誰が走るのか
- 元の選手はいつ戻れるのか
- 記録は誰につくのか
一見すると複雑なルールですが、その根底にあるのは、選手の安全を優先しながら試合の公平性と進行を保つという考え方です。
2026年からはDHという新しい要素も加わりましたが、臨時代走は戦術的な選手交代ではなく、負傷した選手の治療を可能にする一時的な救済措置だと理解しておけば、ほとんどの場面を整理して見ることができます。
