野球中継や試合の記事で耳にする「スクイズ」。三塁走者をバントで生還させる作戦だと知っていても、「スクイズとは何語なのか」「なぜこのプレーをスクイズと呼ぶのか」「英語ではスクイズなのかスクイーズなのか」と聞かれると、意外に説明しにくい言葉です。
- 野球のスクイズの語源は英語の「squeeze play」
- 「squeeze play」という名称は1905年のアメリカで初期用例が確認されている
- 日本では1905年の早稲田大学野球部のアメリカ遠征を通じて伝わったとされ、当初は「バントエンドラン」と呼ばれていた
ただし、「1点を搾り取るからスクイズと名付けられた」という説明だけでは、語源としては不十分です。
ここでは、英単語の意味だけでなく、アメリカでの名称の成立、日本への伝来、日本語表記の変化まで順にたどります。
スクイズの語源は英語の「squeeze play」
日本語の野球で使う「スクイズ」は、英語の squeeze play(スクイーズ・プレイ) に由来します。
Merriam-Websterでは、squeeze playを、三塁走者が本塁へ向かってスタートし、打者がバントして走者の得点を助けようとする野球のプレーとして定義しています。Cambridge Dictionaryでも、打者がバントすることで三塁走者の生還を狙うプレーとして説明されています。
まずは、日本語の「スクイズ」と英語表現の対応を整理しておきましょう。
| 項目 | 表現・意味 |
|---|---|
| 日本語 | スクイズ、スクイズプレー |
| 英語 | squeeze play |
| 英語での短い表現 | squeeze |
| 関連する英語表現 | squeeze bunt |
| squeezeの主な意味 | 押す、圧縮する、搾り出す、押し込む |
| 英語の発音 | /skwiːz/ |
| 日本語で定着した発音・表記 | スクイズ |
「squeeze」は押す・搾り出す・押し込むという意味
「squeeze」は、もともと野球だけで使われる単語ではありません。
Merriam-Websterでは、両側などから圧力をかけて圧縮すること、圧力によって液体などを取り出すこと、狭い場所へ押し込むことなどが主要な意味として挙げられています。たとえば、オレンジを搾って果汁を出す場合にも「squeeze」を使います。
野球のスクイズを理解するときに関係しやすい意味は、次のとおりです。
- 物の両側などから圧力をかけて押す・圧縮する
- 果物などから液体を搾り出す
- 狭い場所へ何かを押し込む
- 相手や対象に圧力をかける
- わずかな差から結果をどうにか得る
Merriam-Websterには「squeeze out」という形で、僅差で勝利を得る用法も掲載されています。また、動詞「squeeze」そのものに、野球でスクイズプレーによって得点するという意味もあります。
三塁走者と打者が連係し、バントによって守備側へ一気に判断を迫りながら得点を狙うスクイズは、「squeeze」が持つ圧力や、狭いところから結果を引き出す語感とよく重なります。
「1点を搾り取るからスクイズ」は覚え方としてはわかりやすい
日本語ではスクイズを「1点を搾り取る作戦」と説明することがあります。
「squeeze」に実際に「搾る」「圧力をかけて取り出す」という意味があるため、プレーの特徴を覚える表現としては非常にわかりやすいでしょう。
ただし、「1点を搾り取るからsqueeze playと命名された」と歴史的事実として断定するのは避けたほうが正確です。
1905年前後の「squeeze play」の初期資料では名称の使用そのものは確認できますが、命名者が「1点を搾り取る」という比喩だけを理由としてこの名称を選んだ、と明記した確実な資料までは確認できません。
そのため語源を説明するなら、「squeezeには押す、搾り出す、圧力をかけるといった意味があり、スクイズというプレーの性格と重なる」と理解するのが安全です。
英語では「squeeze play」だけでなく「squeeze」ともいう
英語で必ず「squeeze play」と言わなければならないわけではありません。
『Dickson Baseball Dictionary』の内容を掲載するBaseball Almanacでは、「squeeze」が「squeeze play」の同義語として掲載されており、名詞としての野球用例は1906年、動詞としてスクイズを仕掛ける意味での用例は1905年とされています。
Cambridge Dictionaryも「squeeze play」の別表現として「squeeze」を掲載しています。
したがって英語では、文脈によって「squeeze play」「squeeze」「squeeze bunt」などが使われます。
英単語「squeeze」の語源は野球より約300年古い
「スクイズの語源」をさらにさかのぼると、「squeeze」という英単語自体は20世紀に誕生した言葉ではありません。
野球用語として成立するより何百年も前から、一般英語として使われていました。「squeezeという単語の語源」と「squeeze playという野球用語の由来」は、分けて考える必要があります。
「squeeze」の使用は1601年までさかのぼる
Merriam-Websterによると、動詞「squeeze」の最初に知られている使用例は1601年で、名詞は1611年です。
語源については、現在は使われなくなった英語の「quease」、中英語の「queysen」、古英語の「cwȳsan」へさかのぼるとされています。Oxford English Dictionaryでも、動詞squeezeの最古の用例を17世紀初頭としています。
つまり、野球で「squeeze play」という名前が現れるより約300年前から「squeeze」という言葉は存在していました。
野球専用に新しく作られた単語ではなく、すでに存在していたsqueezeという英語を野球の作戦名へ転用したと考えるとわかりやすくなります。
「squeeze play」はアメリカで生まれた野球表現
Dictionary.comでは「squeeze play」を1900~1905年ごろに生まれたアメリカ英語として扱っており、Merriam-Websterでは最初に知られている使用年を1905年としています。
ここで重要なのは、「1905年にsqueezeという英単語が生まれた」のではなく、「1905年前後にsqueeze playという野球表現の用例が確認できる」という点です。
この違いを押さえておくと、スクイズの語源を説明するときに「英単語の歴史」と「野球用語の歴史」が混ざりません。
「squeeze play」という野球用語は1905年の新聞に登場する
スクイズという名称の由来を調べるうえで、特に重要なのが1905年です。
Merriam-Websterは「squeeze play」の最初に知られている使用を1905年としています。さらに『Dickson Baseball Dictionary』の調査には、当時の新聞に残された具体的な用例が掲載されています。
この1905年の資料を追うことで、「スクイズという名称がいつごろ野球界で使われ始めたのか」がかなり具体的に見えてきます。
1905年4月4日の新聞に「squeeze play」の初期用例がある
Baseball Almanacが掲載する『Dickson Baseball Dictionary』によると、1905年4月4日付の「Vicksburg Evening Post」に「squeeze play」という表現が登場します。
記事が扱っていたのは、当時のニューヨーク・ハイランダーズがミシシッピ州ジャクソンで行っていたプレーです。
三塁走者が本塁へ向かって走り、打者が合図を受けてバントするという内容で、現在のスクイズと基本的な仕組みが一致しています。
さらに同資料では、その前日の「Birmingham Post」が同じプレーを「squeeze trick」と表現していたことも紹介されています。
少なくとも1905年春には、「squeeze」という言葉と、三塁走者をバントで生還させる戦術が結びつき始めていたと考えられます。
当初の「squeeze play」は現在でいうスーサイドスクイズを指していた
現在はsqueeze playを広くスクイズ全般の意味で使えますが、『Dickson Baseball Dictionary』には、もともとのsqueeze playはsuicide squeezeを意味していたという使用上の注記があります。
つまり、投球に合わせて三塁走者が本塁へスタートし、打者が何としてもバントを当てようとする形が、初期の「squeeze play」の中心だったということです。
後に、打球を確認してから走者が本塁を狙う「safety squeeze」などの表現が使われるようになり、「squeeze play」がより広い総称として理解されるようになりました。
この記事の中心は名称の由来なので戦術上の細かな違いまでは踏み込みませんが、現在のsqueeze playと1905年当時のsqueeze playでは、指し示す範囲が完全に同じとは限らない点は知っておくとよいでしょう。
クラーク・グリフィスが名称の普及に関わったという説
1905年前後のスクイズ史で頻繁に名前が出るのが、ニューヨーク・ハイランダーズを率いていたクラーク・グリフィスです。
『Dickson Baseball Dictionary』では、過去の野球史資料が、グリフィスによって1904年にスクイズがメジャーリーグへ導入され、1905年に名称が付けられた可能性を述べていることを紹介しています。また1905年5月4日付「Chicago Tribune」には、グリフィスとsqueeze playを結びつける表現も確認されています。
ただし、後述するように、同様のプレーそのものは1904年よりかなり以前から行われていたとする記録があります。
そのため、グリフィスを「スクイズの発明者」と断定するより、20世紀初頭のメジャーリーグでスクイズを用い、squeeze playという名称が広がる過程に関わった人物と見るほうが資料に忠実です。
記者サム・クレーンが「squeeze」と名付けたという証言もある
命名者については別の説もあります。
Baseball Almanacの「squeeze」の項目では、研究者Norman Machtが発見した新聞記事として、New York Evening Journalのスポーツ記者サム・クレーンが、1905年にジャクソンでハイランダーズのプレーを見た際に「squeeze」という名称を導入したと主張していたことが紹介されています。
したがって、「誰がスクイズと名付けたのか」については、一人に確定できる状況ではありません。
現時点で資料から安全に整理できるポイントは次のとおりです。
- 「squeeze play」の初期用例は1905年に確認できる
- 1905年春のニューヨーク・ハイランダーズに関する報道と深く結びついている
- クラーク・グリフィスを名称の成立と結びつける説がある
- 記者サム・クレーンが「squeeze」を使い始めたとする証言も残る
- 命名者を一人に断定するより、1905年前後に名称が成立・定着したと考えるほうが慎重
「スクイズの名付け親は○○」と単純化するとわかりやすくはなりますが、複数の記録がある以上、断定しないほうが正確です。
スクイズという戦術そのものは名称より古い
「squeeze play」の使用例が1905年に確認できるからといって、スクイズという戦術も1905年に発明されたとは限りません。
野球史の資料には、三塁走者をバントによって生還させる戦術を19世紀までさかのぼらせる記録があります。したがって、「プレーの起源」と「squeeze playという名前の起源」を別々に考える必要があります。
1860年代にスクイズの原型があったとする研究
Society for American Baseball Research(SABR)が掲載するディッキー・ピアースの伝記では、ピアースが1860年代にバントを戦術的に利用した先駆者だったと説明されています。
さらに研究者Robert H. Schaeferの研究として、1868年までには犠牲バントだけでなく、後にsuicide squeezeと呼ばれるようなプレーも行っていたと紹介されています。
これは「1868年が絶対的なスクイズの発明年」と確定するものではありません。
しかし少なくとも、現在スクイズと呼ばれるプレーに近い発想が、1905年にsqueeze playという名称が新聞へ登場するより数十年前までさかのぼる可能性を示す資料です。
1880年代・1894年・1898年など複数の起源説がある
Baseball Almanacが掲載する『Dickson Baseball Dictionary』には、スクイズの起源について複数の説がまとめられています。
代表的なものを時系列で並べると、次のようになります。
| 時期 | 説・人物 | 資料上の扱い |
|---|---|---|
| 1860年代 | ディッキー・ピアース | SABRが後のsuicide squeezeに相当するプレーを紹介 |
| 1880年代 | Cap Anson、King Kelly | シカゴで行われていたとする説 |
| 1894年 | George Case、Dutch Carter | イェール対プリンストン戦で使われたとする説 |
| 1898年 | Joe Yeager | ブルックリンで導入したとする説 |
| 1904年 | クラーク・グリフィスのハイランダーズ | メジャーリーグへの導入と結びつける説 |
| 1905年 | 「squeeze play」の新聞用例 | 名称の初期用例として確認できる |
複数説が並ぶこと自体が、スクイズの「発明者」を決める難しさを示しています。
野球の戦術は、ある日に一人の選手が完成形を突然発明し、その場で現在と同じ名称を付けるとは限りません。
似たプレーが複数の地域やチームで試され、やがて体系化され、後から共通名称が定着することがあります。スクイズもそのような経過をたどった可能性を考えると、複数の起源説が存在することを理解しやすくなります。
「発明された時期」と「スクイズと呼ばれ始めた時期」を分ける
スクイズの由来を最も簡潔かつ正確に説明するなら、次の二つを分けることが重要です。
プレーの起源は、三塁走者をバントで生還させる戦術を最初に誰が行ったのかという問題です。
一方の名称の起源は、そのプレーを「squeeze」「squeeze play」と呼ぶようになった時期や人物を探る問題です。
前者は19世紀までさかのぼる複数の説がありますが、後者は1905年に「squeeze play」の具体的な新聞用例を確認できます。
したがって、「スクイズは1905年に発明された」と書くより、「squeeze playという名称は1905年の用例が確認されるが、同様の戦術はそれ以前から存在したとする記録がある」と説明するほうが正確です。
スクイズは1905年の早稲田大学野球部の渡米を通じて日本へ伝わった
英語での由来だけでなく、「スクイズが日本へどう入ってきたのか」まで見ると、日本語の野球用語としての歴史がより明確になります。
日本野球史を扱った複数の研究資料では、1905年の早稲田大学野球部のアメリカ遠征が重要な転機として位置づけられています。この遠征で早稲田はアメリカの野球技術や戦術を学び、スクイズプレーも日本へ持ち帰ったとされています。
早稲田大学野球部は1905年に初のアメリカ遠征を行った
早稲田大学野球部の年表によると、1905年4月4日、安部磯雄の引率のもと13人の選手が第1回アメリカ遠征へ出発しました。
遠征では26試合を戦い、7勝19敗。6月29日に帰国しています。
興味深いのは、この1905年という年が、アメリカで「squeeze play」の初期用例が確認される年と同じだということです。
つまり、アメリカで「squeeze play」という名称が野球報道に現れ始めた時期とほぼ同時期に、日本の大学野球チームがアメリカへ渡り、その戦術を学んでいたことになります。
早稲田が持ち帰った「野球土産」の一つがスクイズだった
慶應義塾大学の研究紀要に掲載された日本野球史の整理では、1905年の早稲田大学の渡米によって、グラブやスパイクといった用具だけでなく、スクイズプレー、スライディング、投手のワインドアップなどの技術・戦術が紹介されたとされています。
別の早稲田大学の研究でも、『早稲田大学野球部百年史』をもとに、アメリカ遠征から持ち帰ったものとしてスクイズ、バントの運用、投球法、スライディング、二塁手と遊撃手の連係などが列挙されています。
スクイズだけが単独で日本へ輸入されたのではありません。
当時の日本野球が、アメリカからより組織的・戦術的な野球を吸収していく流れの中で、スクイズも導入されたと理解するのが自然です。
日本では当初「バントエンドラン」と呼ばれていた
今回の語源を考えるうえで特に重要なのが、日本で最初から「スクイズ」という呼び名だけが使われていたわけではない点です。
早稲田大学の研究が引用する『早稲田大学野球部百年史』では、渡米した早稲田の選手がスクイズプレーを習得し、帰国後の早慶戦で使用して成功させ、そこから広く行われるようになったと説明されています。さらに、当時はこのプレーを「バントエンドラン」と呼んでいたと記録されています。
この記録から、少なくとも日本への導入直後には、現在の「スクイズ」という呼称が唯一の名称として定着していたわけではなかったことがわかります。
日本での名称の歴史を整理すると、
- 1905年、早稲田大学野球部がアメリカ遠征でスクイズを学んだ
- 帰国後の早慶戦で使用し、成功したとする記録がある
- 当時は「バントエンドラン」と呼ばれていた
- その後、英語の「squeeze play」に由来するスクイズプレーという名称が日本語でも定着していった
という流れになります。
「スクイズは英語だから、その名称も1905年の日本到来時からそのまま使われていた」と考えると、実際の呼称の歴史を見落としてしまいます。
日本語では「スクヰーズプレー」という古い表記も使われていた
現在は「スクイズ」「スクイズプレー」という表記が一般的ですが、過去の日本語資料を見ると表記は一定ではありませんでした。
日本国語大辞典に関する用例情報では、戦前の文献に「スクヰーズプレー」という表記が確認されています。これは「スクイズ」と「スクイーズ」の違いを考えるうえでも興味深い資料です。
1928年の文献に「スクヰーズプレー」の用例が報告されている
「日国友の会」では、佐藤紅緑の『あゝ玉杯に花うけて』にある1928年の用例として「スクヰーズプレー」という表記が報告されています。
同サイトの編集部コメントによれば、日本国語大辞典第2版に掲載されていた1929年の『日本野球史』の用例より1年早い例に当たるとされています。
ここで注意したいのは、1928年が「日本で初めてスクイズという言葉が使われた年」と確定したわけではないことです。
1905年にはすでにプレーそのものが日本へ導入されているため、1928年はあくまで現在確認・報告されている文献上の古いカタカナ表記の一例として見る必要があります。
現在は「スクイズプレー」という表記が辞書にも定着
現在の日本語辞書では「スクイズプレー」が一般的な表記です。
コトバンクに収録された辞書では、「スクイズプレー」を英語の「squeeze play」に由来する言葉とし、三塁走者を生還させるため打者がバントする攻撃方法として説明しています。
集英社の『現代人のカタカナ語辞典』でも、「スクイズプレー[squeeze play]」として掲載されています。
かつて「スクヰーズプレー」のような表記が使われた時期を経て、現在の日本語では「スクイズプレー」「スクイズ」が定着したと整理できます。
「スクイズ」と「スクイーズ」はどちらが正しい?
英語の綴りが「squeeze」であることを知ると、「本当はスクイーズなのでは?」「野球だけスクイズと呼ぶのは間違い?」という疑問が出てきます。
結論は、日本語で野球について話すなら「スクイズ」で正しく、英語として発音すると「スクイーズ」に近いです。言語によって呼び方を分ければ混乱しません。
英語の「squeeze」は「スクイーズ」に近い発音
Cambridge Dictionaryでは「squeeze」の発音を /skwiːz/ と示しています。Collins Dictionaryでも同じく /skwiːz/ とされています。
「iː」は長く伸ばす母音なので、日本語のカタカナで音を近づければ、「スクイーズ」あるいは「スクウィーズ」に近くなります。
英語の「squeeze play」も /ˈskwiːz ˌpleɪ/ と発音されるため、英語話者に対して発音するなら、日本語式の短い「スクイズ」より「スクイーズ・プレイ」に近づけたほうが原音には近くなります。
日本語の野球用語では「スクイズ」で問題ない
一方、日本の野球について日本語で話す場合は「スクイズ」で問題ありません。
日本語辞書にも「スクイズプレー」として掲載されており、すでに日本語の野球用語として定着しています。
したがって、使い分けは次のように考えると簡単です。
| 場面 | 適した表現 |
|---|---|
| 日本語の野球用語 | スクイズ、スクイズプレー |
| 英語表記 | squeeze、squeeze play |
| 英語に近い発音 | スクイーズ、スクウィーズに近い |
| 古い日本語資料の一例 | スクヰーズプレー |
「スクイズ」は英語を間違えて発音しているのではなく、日本語の野球用語として定着した外来語と考えればよいでしょう。
なぜ日本では「スクイーズ」ではなく「スクイズ」になったのか
ここは、もっとも断定に注意したい部分です。
1928年の資料には「スクヰーズプレー」という英語の長母音に比較的近い表記が確認される一方、現在は「スクイズ」が一般化しています。
しかし、なぜ「スクヰーズ」から「スクイズ」へ変化したのかを直接説明する信頼できる資料は、今回確認できた主要な辞書・野球史資料では特定できません。
そのため、「日本人が聞き間違えた」「実況アナウンサーが縮めた」「新聞が文字数を減らした」など、根拠のない説明を語源として付け加えるのは避けるべきです。
現時点で確実に言えるのは、「英語の発音はスクイーズに近い」「戦前にはスクヰーズプレーという表記例がある」「現在の日本語ではスクイズが定着している」という三点までです。
野球のスクイズを英語ではどう表現する?
海外の記事や英語実況では、日本語の「スクイズ」と完全に同じ形で表記されるわけではありません。
基本は「squeeze play」ですが、「squeeze」「squeeze bunt」などの言い方もあります。また、スクイズの種類を区別する場合には別の表現が加わります。
基本表現は「squeeze play」
もっとも基本的な英語表現は squeeze play です。
Cambridge Dictionaryには、監督がスクイズを指示する文脈で「call for a squeeze play」という用例も掲載されています。
英語の野球記事で、
- runner on third(三塁走者)
- bunt(バント)
- score(得点する)
といった言葉と「squeeze play」が一緒に出てきた場合は、日本語でいうスクイズを指していると考えてよいでしょう。
「squeeze」「squeeze bunt」も使われる
「squeeze」は単独でもスクイズを意味します。
Baseball Almanacが掲載する野球辞典では「squeeze」が「squeeze play」の同義語とされ、さらに「squeeze bunt」も同義表現として挙げられています。
英語表現をまとめると次のようになります。
- squeeze play:スクイズプレーの基本表現
- squeeze:野球の文脈でスクイズを短く表す言い方
- squeeze bunt:スクイズのためのバント
- suicide squeeze:走者が投球とともに本塁へスタートするスクイズ
- safety squeeze:打者のバントを確認してから走者が本塁を狙うスクイズ
Merriam-Websterでは「suicide squeeze」を、走者が打者の接触を確認せず投球とともに全力で走るスクイズとして定義しています。
一方、スクイズの種類や走者のスタート方法まで詳しく知りたい場合は、語源とは検索意図が異なります。ここでは「英語では種類によって名称が分かれる」と押さえておけば十分です。
スクイズは和製英語ではない
「スクイズ」というカタカナだけを見ると、日本で作られた和製英語のようにも感じられます。
しかし、元になった「squeeze play」は実際にアメリカ英語で使われてきた野球用語です。Merriam-WebsterやCambridge Dictionaryなど複数の英語辞書にも掲載されています。
「スクイズ」という日本語表記は外来語だが、元の野球用語は英語
整理すると、「スクイズ」は日本語化された外来語です。
日本語としての発音やカタカナ表記は英語の原音と完全には一致しませんが、元になった野球用語そのものを日本で創作したわけではありません。
したがって、「スクイズは和製英語です」と説明すると誤解を招きます。
より正確には、「英語のsqueeze playに由来し、日本語ではスクイズまたはスクイズプレーという形で定着した外来語」と説明できます。
野球以外にも「squeeze play」という表現はある
現在の英語では「squeeze play」は野球だけでなく、相手へ圧力をかけ、譲歩や決断を迫る状況を表す比喩表現としても使われます。
Merriam-Websterにも、野球の意味とは別に「目的を得るために圧力をかけること」という語義が掲載されています。
Baseball Almanacの野球辞典でも、後の拡張用法として、相手を二つの不利な選択肢の間に追い込む戦略を意味する用例が紹介されています。
英語の記事で「squeeze play」と出てきても、必ず野球とは限りません。
三塁走者やバント、打者などの野球用語が周囲にあるかを見れば、どちらの意味なのか判断しやすくなります。
スクイズの語源・由来で間違えやすいポイント
スクイズの由来を検索すると、サイトによって「1点を搾り取るから」「1905年に発明された」「グリフィスが発明した」など、少しずつ説明が違うことがあります。
その理由の多くは、「英単語の意味」「プレーそのものの起源」「squeeze playという名称の起源」「日本への伝来」という異なる話が一つにまとめられているためです。
- 「1点を搾り取るから名付けられた」と断言しない
- 1905年をスクイズそのものの発明年と決めつけない
- クラーク・グリフィスを唯一の発明者と断定しない
- 1928年を日本でスクイズという言葉が生まれた年と断定しない
「1点を搾り取るから名付けられた」と断言する
「squeeze」に搾り出すという意味があること自体は事実です。
しかし、「1点を搾り取る」という日本語の説明だけを、歴史上の命名理由として断定できる資料は確認できません。
「1点を搾り取る」は意味を理解するための覚え方として使い、「squeezeには搾る・圧縮する・圧力をかけるなどの意味がある」と説明するほうが正確です。
「スクイズは1905年に発明された」と考える
1905年は「squeeze play」という言葉の歴史では非常に重要です。
Merriam-Websterでも初出年を1905年としており、実際に同年4月の新聞用例も確認されています。
しかし、プレー自体については19世紀までさかのぼる記録があります。
したがって1905年は、スクイズそのものの確定した発明年ではなく、squeeze playという名称の初期用例が確認できる年と覚えるのが適切です。
「クラーク・グリフィスがスクイズを発明した」と断定する
グリフィスは1905年前後のsqueeze playの普及史と深く関係しています。
一方で、1880年代や1894年などに同様のプレーが行われたとする説があり、SABRには1868年までさかのぼる研究も紹介されています。
そのため、「グリフィスがスクイズそのものを発明した」と断定するのは慎重さを欠きます。
「グリフィス率いるハイランダーズが20世紀初頭にスクイズを使用し、squeeze playという名称の普及に関係したとされる」と説明するのが妥当です。
「1928年が日本でスクイズという言葉が生まれた年」と考える
1928年には「スクヰーズプレー」という文献上の用例が報告されていますが、日本へのプレーの導入そのものは1905年とされています。
したがって、1928年は「現在確認されている古い表記例の一つ」と考えるべきです。
文献で確認できる最古級の用例と、実際に口頭や野球現場で言葉が使われ始めた時期は必ずしも一致しません。
スクイズの語源・英語についてよくある質問
ここまでの内容を踏まえると、スクイズの語源について検索されやすい疑問には、かなり明確に答えられます。
最後に、意味・英語・日本語表記・歴史のポイントを短く確認しておきます。
- スクイズの語源は何ですか?
-
野球のスクイズの語源は、英語の squeeze play です。
「squeeze」には押す、圧縮する、搾り出す、押し込むなどの意味があります。野球用語としての「squeeze play」は1905年の使用例が確認されています。
- 野球のスクイズを英語では何と言いますか?
-
基本的には squeeze play と言います。
野球の文脈では「squeeze」だけでもスクイズを意味し、「squeeze bunt」という表現も使われます。
- 「squeeze」の日本語の意味は?
-
文脈によって「押す」「圧縮する」「搾る」「搾り出す」「押し込む」などと訳せます。
野球のスクイズでは、単純に「搾る」だけではなく、圧力をかけたり、狭いところから結果を得たりするsqueezeの語感まで含めて考えると理解しやすくなります。
- スクイズとスクイーズはどちらが正しいですか?
-
日本語の野球用語なら「スクイズ」で正しい表現です。
英語の「squeeze」の発音は /skwiːz/ なので、原音は「スクイーズ」「スクウィーズ」に近くなります。
- スクイズは和製英語ですか?
-
いいえ。元になった「squeeze play」は実際に英語圏で使われる野球用語です。
日本語では発音と表記が「スクイズ」に変化して定着していますが、プレー名そのものを日本で作ったわけではありません。
- スクイズはいつ日本へ伝わったのですか?
-
日本野球史を扱った資料では、1905年の早稲田大学野球部のアメリカ遠征を通じて導入されたとされています。
早稲田はスクイズだけでなく、バントの運用、スライディング、ワインドアップなどもアメリカから学んで持ち帰りました。
- 日本では最初からスクイズと呼ばれていたのですか?
-
少なくとも、早稲田大学の研究が引用する『早稲田大学野球部百年史』では、導入当時のスクイズを「バントエンドラン」と呼んでいたと記録されています。
後には「スクヰーズプレー」という表記も確認され、現在の「スクイズ」「スクイズプレー」へ定着していきました。
- スクイズを発明したのは誰ですか?
-
一人に断定するのは困難です。
19世紀に類似するプレーが行われていたとする複数の説があり、1860年代のディッキー・ピアース、1880年代のCap AnsonとKing Kelly、1894年のGeorge CaseとDutch Carterなど、複数の起源説があります。
一方、「squeeze play」という名称については1905年の新聞用例を確認できます。
スクイズの語源をたどるとアメリカから日本への野球史まで見えてくる
野球の「スクイズ」は、英語の squeeze play に由来する言葉です。
「squeeze」には押す、圧縮する、搾り出す、押し込むといった意味があり、三塁走者と打者が連係して得点を狙うスクイズの性格とよく重なります。
ただし、スクイズの由来は「1点を搾り取る」という一言だけでは説明しきれません。
英語での名称の成立と戦術の起源、日本への伝来、日本語表記の変化を分けて見ることで、より正確な歴史が見えてきます。
重要なポイントをまとめると、次のとおりです。
- スクイズの英語は基本的に squeeze play
- 「squeeze」には押す・搾り出す・圧力をかけるなどの意味がある
- 「squeeze play」の初期用例は1905年に確認されている
- スクイズに相当する戦術自体は19世紀から存在したとする記録がある
- 日本では1905年の早稲田大学野球部のアメリカ遠征を通じて導入されたとされる
- 導入当時は「バントエンドラン」と呼ばれていたという記録がある
- 1928年には「スクヰーズプレー」という日本語の文献用例が報告されている
- 現在は日本語で「スクイズ」、英語の発音では「スクイーズ」に近い
特に覚えておきたいのは、「1905年にスクイズが発明された」のではなく、「1905年にはsqueeze playという名称の使用が確認され、同じ年に早稲田大学野球部のアメリカ遠征を通じて日本へスクイズが持ち帰られたとされる」という点です。
アメリカで名称が使われ始めた時代と、日本がその新しい野球戦術を吸収した時代がほぼ重なっていることは、スクイズという言葉の由来を考えるうえで興味深いところです。
スクイズの名称だけでなく、「そもそも野球のスクイズとはどのようなプレーなのか」「どんな目的で使うのか」「どのような種類があるのか」まで確認したい場合は、関連記事「野球のスクイズとは?意味・基本ルール・種類と目的」で全体像を確認できます。
出典情報
- 出典・参考文献
- SQUEEZE Definition & Meaning – Merriam-Webster
- SQUEEZE PLAY Definition & Meaning – Merriam-Webster
- SUICIDE SQUEEZE Definition & Meaning – Merriam-Webster
- Squeeze Play Baseball Dictionary | Baseball Almanac
- SQUEEZE PLAY | English meaning – Cambridge Dictionary
- SQUEEZE | English meaning – Cambridge Dictionary
- SQUEEZE PLAY Definition & Meaning | Dictionary.com
- Dickey Pearce – Society for American Baseball Research
- 日本の野球とアメリカ合衆国のベースボールの相違についての一考察
- 「修養」から「教育」へ ~早大アメリカ遠征と「科学的野球」~
- 野球部年表【明治期】1901(明治34)年~1912(明治45)年
- スクイズプレー | 日国友の会
- スクイズプレーとは? 意味や使い方 – コトバンク
- スクイズプレー | 現代人のカタカナ語辞典 | imidas






